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(1-2) 優雅なティータイム
「レンちゃん、3時になったから、お茶にしましょうか。」
一階の受付で仕事に追われていたアイナが声をかけてくる。
「あら、もう3時だったのね、作業に夢中で気が付かなかったわ。」
レンとアイナは上手くやっている。
アイナもシェラザードにレンの背景などは聞いているのか、レンに向かっては何も聞いてきたりしなかった。
エステルとヨシュアが連れてきた孤児、という認識のようだ。
もちろん結社の執行者であったことは知っているのだろう。
「今日は、ローズのお茶の葉を姫様からレンちゃんに、と送っていただいた分が届いていたのよ。
ローズティーにしましょう。」
クローゼもレンを気遣って、頻繁に紅茶の葉や、お茶菓子などを送ってくれる。
ロレントなんて田舎で、お洒落なお茶用品を仕入れるのは一苦労ありそうだと懸念していたのだが
思わぬ便利な流通ルートが開拓されて、その点に関してはレンには不満はなかった。
皇太女であるクローゼのセンスは文句なく、その時流行っていて、また旬で一番美味しいものを、必要な時期に手配してくれる。
エステルは税金の無駄使いなのでは、と最初渋っていたが、王城での迎賓用の備品の余りをクローゼのポケットマネーで買い取って回してくれている、という事情もあり、断ることも出来なかったようだ。
最初に贈り物の包みをあけて、その贅沢な中身に驚いたエステルがクローゼに抗議の連絡を入れているのをレンは横目で見ていた。
「わたくし、まるで妹が出来たようでとっても嬉しいんです。レンちゃんに喜んでもらえると、政治の駆け引きで疲れた心も癒されます。リベールの平和のためにもっと精進せねばって元気が貰えますわ。」
さすがはお姫様である。エステルなんて一般市民レベルは、簡単に黙らせることが出来る。
この芸当だけは、レンも真似することは出来ないな、と思った。
国際的バランス感覚に長ける女王陛下と、その優秀な跡継ぎが居れば、今後のリベールの平和も約束されたようなものであろう。
いきさつはどうあれ、そういう事情でグランセルの王城からロレントのギルト支部には週一で荷物が配達されるのだった。
届け物を受け取ったアイナが、午後にはレンに声をかけてくれる。
アイナもレンのお茶好きについてはシェラザードやエステルからよく聞いているのだろう。
一人残されたレンが寂しくないように、と頻繁に声をかけてくれている。
クローゼがお茶菓子を送ってくれるのも、そういった心配もあるのだろう。
レンは、周囲の大人達に早くロレントに馴染んでもらいたいと気をつかってもらっていることを感じ取っていた。
「素敵ね。ローズのお茶はレンの大好物なの。お姫様のくれた茶葉はルシタリカ産の旬の逸品よ。アイナお姉さんもきっと気に入るわ。」
レンもついつい愛想よく茶器へと向かう。
お湯を沸かして、ティーポットの中でお茶の葉を蒸らしていく。
次第にギルト支部内全体にローズティーの香りがいきわたってゆく。
この瞬間がレンが日々の習慣の中で何よりも好きな時間であった。
レンがお茶好きになったのはいつの頃だっただろうか。
遠い記憶の中で、お母様がいつも美味しそうに飲んでいたからだろうか。
レンが自分のお茶好きを認識したのは、それからずいぶんと経ってからだった。
結社に来たころに、レンが紅茶を好むことを知ったレーヴェがこっそりお茶器を揃えてくれた時からだろう。
レンはレーヴェの部屋にヨシュアを呼んで三人でお茶を飲むことを喜んだ。
素直に喜ぶレンを可愛がって、二人は仕事の合間にお茶用品を買い足してくれるようになったのだ。
世の中に疲れ果てたレンにとって、唯一とも言える憩いの時間を与えてくれたのだった。
「ああ、いい香りね。」
アイナも弾んだ声を上げて、事務作業の手を止めた。
「はい。お茶が入ったわ、アイナお姉さん。今日のお菓子はお姫様自作のシュガークッキーよ。可愛いハート型なの。食べるのが勿体無いくらいだわ。」
レンが休憩室のテーブルをあっという間に上品な茶室へと変化させている。
どこで手に入れたのか、薔薇の花まで花瓶に生けて、優雅な空間を作り上げていた。
その子供離れしたセンスに、アイナは舌を巻く。
「あら、綺麗なお花ね。」
「ええ、いいでしょう。今朝、エリッサさんにもらったの。ティオさんの農園で咲いているんですって。」
エステルの友人であるエリッサやティオも一人で過ごしがちなレンの事を気にかけてくれていた。
レンがお花好きと知ってからは、度々手塩にかけて育てたお花を分けてくれている。
二人ともレンを下手に子ども扱いもしない。
ロレントに着たばかりの頃のヨシュアの雰囲気に似ているとも言っていた。
詳しい事情は聞いていないものの、何か察することがあるのだろう。
程よい距離を保ちながら、ロレントに馴染むようにと気をつかってくれていた。
その賢い気遣いにレンは甘えることにしている。
騒々しいエステルの幼馴染にしては二人はセンスもよく、気も利く相手でレンとしてはそれだけで十分であった。
「ああ、やっぱりクローゼのお菓子の腕は一級品ね。酸味のあるローズティーに、甘みが程良く抑えられたクッキーが良く合うわ。」
「ええ、さすがは姫様。本当に女性らしい。」
レンの賛辞に対して、アイナも素直に同意した。
「それに対して、エステルときたら、いまだに女性らしさが見えないわねえ。」
「そうねえ。」
「ねえ、ヨシュアとエステルの仲って、一緒に外国で暮らして少しは発展しているのかしら。」
アイナは、すっかりリラックスして、まるで酒場での下世話な世間話モードと化している。
「さああ。ヨシュアは手を出す気はないんじゃないのかしら。」
「え、なんで?エステルに女っ気が足りないのかしら。」
「まあ、エステルに女性らしさがないことはレンも同意するけれど、ヨシュアは気にはしていないと思うわよ。」
「えーでも、ホラ二人とも思春期まっさかりなのよ。一つ屋根の下にいれば、こう盛り上がってむらむらーっと来ることくらいあるでしょうに。」
「やっぱりエステルにはそういった色気が足りないんじゃない?」
当人達からすれば余計なお世話であるネタで二人は盛り上がっていく。
アイナの家族や愛情に対する斜に構えた見方はどちらかというとレンと似通っていた。
アイナの過去は聞いてはいないが、一癖も二癖もある人格から何かしらの事情はあるのだろうと、想像はつく。
とにかく、おせっかいで絵に描いた幸せそのものなロレント住人と違い、
ついつい斜めから捉えがちなアイナの距離のとり方は、平穏そのものの空気に馴染みきれないレンにはむしろ心地よいものであった。
二人はそのまま、シェラザードとオリビエの関係についても勝手な憶測を上げては、無責任に面白がっていく。
「もしもよ、あの二人がくっつけるとしたら、どっちの国に住むのかしらね。シェラに上流階級なんて絶対ムリよ。」
「確かに、銀閃のお姉さんが大人しく落ち着けるタマには見えないわね。
だったら、あの変態のお兄さんがこっちに来るしかないんじゃない?」
エレボニアの情勢も日々悪化していると情報が流れて来ている。オリビエにはそんな先まで責任を持つ余裕は今はないだろう。
だが、そんなことは世間話には関係が無いのだ。二人は、勝手な想像を更に膨らませていくのだった。
「レンちゃん、3時になったから、お茶にしましょうか。」
一階の受付で仕事に追われていたアイナが声をかけてくる。
「あら、もう3時だったのね、作業に夢中で気が付かなかったわ。」
レンとアイナは上手くやっている。
アイナもシェラザードにレンの背景などは聞いているのか、レンに向かっては何も聞いてきたりしなかった。
エステルとヨシュアが連れてきた孤児、という認識のようだ。
もちろん結社の執行者であったことは知っているのだろう。
「今日は、ローズのお茶の葉を姫様からレンちゃんに、と送っていただいた分が届いていたのよ。
ローズティーにしましょう。」
クローゼもレンを気遣って、頻繁に紅茶の葉や、お茶菓子などを送ってくれる。
ロレントなんて田舎で、お洒落なお茶用品を仕入れるのは一苦労ありそうだと懸念していたのだが
思わぬ便利な流通ルートが開拓されて、その点に関してはレンには不満はなかった。
皇太女であるクローゼのセンスは文句なく、その時流行っていて、また旬で一番美味しいものを、必要な時期に手配してくれる。
エステルは税金の無駄使いなのでは、と最初渋っていたが、王城での迎賓用の備品の余りをクローゼのポケットマネーで買い取って回してくれている、という事情もあり、断ることも出来なかったようだ。
最初に贈り物の包みをあけて、その贅沢な中身に驚いたエステルがクローゼに抗議の連絡を入れているのをレンは横目で見ていた。
「わたくし、まるで妹が出来たようでとっても嬉しいんです。レンちゃんに喜んでもらえると、政治の駆け引きで疲れた心も癒されます。リベールの平和のためにもっと精進せねばって元気が貰えますわ。」
さすがはお姫様である。エステルなんて一般市民レベルは、簡単に黙らせることが出来る。
この芸当だけは、レンも真似することは出来ないな、と思った。
国際的バランス感覚に長ける女王陛下と、その優秀な跡継ぎが居れば、今後のリベールの平和も約束されたようなものであろう。
いきさつはどうあれ、そういう事情でグランセルの王城からロレントのギルト支部には週一で荷物が配達されるのだった。
届け物を受け取ったアイナが、午後にはレンに声をかけてくれる。
アイナもレンのお茶好きについてはシェラザードやエステルからよく聞いているのだろう。
一人残されたレンが寂しくないように、と頻繁に声をかけてくれている。
クローゼがお茶菓子を送ってくれるのも、そういった心配もあるのだろう。
レンは、周囲の大人達に早くロレントに馴染んでもらいたいと気をつかってもらっていることを感じ取っていた。
「素敵ね。ローズのお茶はレンの大好物なの。お姫様のくれた茶葉はルシタリカ産の旬の逸品よ。アイナお姉さんもきっと気に入るわ。」
レンもついつい愛想よく茶器へと向かう。
お湯を沸かして、ティーポットの中でお茶の葉を蒸らしていく。
次第にギルト支部内全体にローズティーの香りがいきわたってゆく。
この瞬間がレンが日々の習慣の中で何よりも好きな時間であった。
レンがお茶好きになったのはいつの頃だっただろうか。
遠い記憶の中で、お母様がいつも美味しそうに飲んでいたからだろうか。
レンが自分のお茶好きを認識したのは、それからずいぶんと経ってからだった。
結社に来たころに、レンが紅茶を好むことを知ったレーヴェがこっそりお茶器を揃えてくれた時からだろう。
レンはレーヴェの部屋にヨシュアを呼んで三人でお茶を飲むことを喜んだ。
素直に喜ぶレンを可愛がって、二人は仕事の合間にお茶用品を買い足してくれるようになったのだ。
世の中に疲れ果てたレンにとって、唯一とも言える憩いの時間を与えてくれたのだった。
「ああ、いい香りね。」
アイナも弾んだ声を上げて、事務作業の手を止めた。
「はい。お茶が入ったわ、アイナお姉さん。今日のお菓子はお姫様自作のシュガークッキーよ。可愛いハート型なの。食べるのが勿体無いくらいだわ。」
レンが休憩室のテーブルをあっという間に上品な茶室へと変化させている。
どこで手に入れたのか、薔薇の花まで花瓶に生けて、優雅な空間を作り上げていた。
その子供離れしたセンスに、アイナは舌を巻く。
「あら、綺麗なお花ね。」
「ええ、いいでしょう。今朝、エリッサさんにもらったの。ティオさんの農園で咲いているんですって。」
エステルの友人であるエリッサやティオも一人で過ごしがちなレンの事を気にかけてくれていた。
レンがお花好きと知ってからは、度々手塩にかけて育てたお花を分けてくれている。
二人ともレンを下手に子ども扱いもしない。
ロレントに着たばかりの頃のヨシュアの雰囲気に似ているとも言っていた。
詳しい事情は聞いていないものの、何か察することがあるのだろう。
程よい距離を保ちながら、ロレントに馴染むようにと気をつかってくれていた。
その賢い気遣いにレンは甘えることにしている。
騒々しいエステルの幼馴染にしては二人はセンスもよく、気も利く相手でレンとしてはそれだけで十分であった。
「ああ、やっぱりクローゼのお菓子の腕は一級品ね。酸味のあるローズティーに、甘みが程良く抑えられたクッキーが良く合うわ。」
「ええ、さすがは姫様。本当に女性らしい。」
レンの賛辞に対して、アイナも素直に同意した。
「それに対して、エステルときたら、いまだに女性らしさが見えないわねえ。」
「そうねえ。」
「ねえ、ヨシュアとエステルの仲って、一緒に外国で暮らして少しは発展しているのかしら。」
アイナは、すっかりリラックスして、まるで酒場での下世話な世間話モードと化している。
「さああ。ヨシュアは手を出す気はないんじゃないのかしら。」
「え、なんで?エステルに女っ気が足りないのかしら。」
「まあ、エステルに女性らしさがないことはレンも同意するけれど、ヨシュアは気にはしていないと思うわよ。」
「えーでも、ホラ二人とも思春期まっさかりなのよ。一つ屋根の下にいれば、こう盛り上がってむらむらーっと来ることくらいあるでしょうに。」
「やっぱりエステルにはそういった色気が足りないんじゃない?」
当人達からすれば余計なお世話であるネタで二人は盛り上がっていく。
アイナの家族や愛情に対する斜に構えた見方はどちらかというとレンと似通っていた。
アイナの過去は聞いてはいないが、一癖も二癖もある人格から何かしらの事情はあるのだろうと、想像はつく。
とにかく、おせっかいで絵に描いた幸せそのものなロレント住人と違い、
ついつい斜めから捉えがちなアイナの距離のとり方は、平穏そのものの空気に馴染みきれないレンにはむしろ心地よいものであった。
二人はそのまま、シェラザードとオリビエの関係についても勝手な憶測を上げては、無責任に面白がっていく。
「もしもよ、あの二人がくっつけるとしたら、どっちの国に住むのかしらね。シェラに上流階級なんて絶対ムリよ。」
「確かに、銀閃のお姉さんが大人しく落ち着けるタマには見えないわね。
だったら、あの変態のお兄さんがこっちに来るしかないんじゃない?」
エレボニアの情勢も日々悪化していると情報が流れて来ている。オリビエにはそんな先まで責任を持つ余裕は今はないだろう。
だが、そんなことは世間話には関係が無いのだ。二人は、勝手な想像を更に膨らませていくのだった。
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