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(3-5) 首相私邸
テイウの運転する動力車に乗って、5分ほどで首相邸には着いた。車は海とは反対方向の山が見える方角へ向かい、やがて高台に白く重厚で、伝統的な石造りの豪邸が見えてきた。
車を降りて、大理石の豪華な家屋を見て、ティータは声が震える。
「こ、ここが首相さんのお家ですか。わたし、緊張してきました。」
レンは、反対に一国の首長の家が、私邸とはいえ、ずいぶんと一般的な規模ことに驚いていた。二階建てで、上流階級の家としては普通程度だった。むしろ庶民的とすら言えるだろう。大きさとしては、クロスベルのレンの実家の程度である。マクダエル邸よりは小さいくらいかもしれない。
リベールでも、ボースやグランセルあたりではこの規模の豪邸はそれなりに見られる。
車を降りると、家の前にティータやレンと同年輩程度の年頃の少女が立っているのに気付いた。
ティータとレンに気付くと、丁寧にお辞儀をする。
少女は、淡い桃色の入った栗色の髪を肩上で綺麗に切りそろえていた。ハーフテイルに髪を結い、耳上まで持ち上げて、白いリボンを結んでいる見るからに上流階級の可憐な少女であった。
ティータとレンに近づき、挨拶をしてくれた。
「はじめまして。ようこそいらっしゃいました。わたくし、リスイ・ルエンと申します。」
「あ、ティータ・ラッセルです。よろしくお願いします。」
「レン・ブライトですわ。よろしくお願いするわね。」
「ようこそ、いらっしゃいました。弟のショウキ・ルエンです。」
「うふふ。同じ年頃の少女がいらっしゃると聞いて楽しみにしていましたの。お会い出来て、とても嬉しいです。」
「わたしも、まさか同じくらいの女の子がいるなんて知りませんでした。嬉しいです!」
「リスイちゃん、ショウキくんも、久しぶりじゃの。」
「お久しぶりです。サイオンさん、テイウさん。」
「お荷物お持ちしますわ。」
「あ、コレ、けっこういろいろ入ってて重いんだ。いいよう。」
「ご遠慮なさらず・・・。」
「きゃ・・・。お、重いですわね・・・。」
「う、うん・・・。無理しないで・・・・・・。機械デリケートだし・・・。」
「くす。お気持ちだけ頂いておくわね。わたくし達これでも、それなりにパワフルなんですの。どうぞお気遣いなく。」
「・・・。お力になれず申し訳ありません。」
「その、こちらです。まずは、お部屋にご案内致しますね。二階の庭側のテラスをご用意しました。」
「男性のお二人は、僕がご案内しますね。一階のバールーム横に休憩室をご用意しましたので。」
「わああああ。立派なお部屋~!」
「れ、れんちゃん!ベッドがふっかふかだよお!!」
「そ、そうね。レンもこんなお姫様仕様のベッドは久々だわ。ちょっと、う、嬉しいかも。」
「きゃあ、レンちゃん!このシーツ、すっごいさわり心地がいいよう!」
「ちょっと、ティータ、あんまりはしゃがないで頂戴。それにしても、良い眺めね。テラス下のお庭と池もステキだけど、海までの一望は絶景だわ。」
「ほんとだー、わあ、すごーい。きれーーい!」
「ふふ。当家自慢のゲストルームでございます。気に入っていただけると、こちらも頑張ってセッティングした甲斐がありますわ。」
「ええ!リスイさんがセットしてくれたんですか。」
「ええ。お客様が同じお年とお聞きして、もう居ても経ってもいられなくて、お夕食もメニューはわたくしが選ばせていただきました。期待していてくださいね。」
「ご、ごくり・・・。」
「うふふ。そう言われると、お腹がいい感じに空いてきたわ。」
「では、ディナールームにご案内します。そろそろ父も仕事から帰宅してくる頃かと思います。」
「あ、はい!」
「こちらです。」
「うわわわ、なんか豪華~!わあ、綺麗なお花!!」
「こちらで少しおくつろぎ下さい。今ドリンクをお持ちしますわ。暑くて喉が渇いていらっしゃるでしょう。お待ち下さい。」
「ねね、リスイちゃんってお上品でしっかりしているよね。ちょっと妬けちゃうな。」
「あら、ティータはティータで素直で素朴で可愛らしいわよ。レンはティータはそのままで良いと思うわ。」
「・・・、レンちゃんもさ、こういう高級な雰囲気によく合うよね。いいなあ。ティータももうちょっと上品になるべきかなあ。」
「・・・、レンはただの背伸びよ。」
「ねね、レンちゃんって貿易商さんの娘さんだったの?」
「ああ、さっきの話ね。そうよ。」
「そ、そうなんだ・・・。えっと、どんなご両親?」
「・・・・・・。お優しいお父様と、綺麗なお母様だったわ。」
「ふうん。クロスベルって街に住んでいたんだよね。」
「そうね。」
「どんな街?」
「そうね、灰色の魔都、という表現が見事に似合う街よ。なんでも、ごっちゃに詰め込まれて、一気に肥大化してしまった。」
「マト?」
「そんなに治安がいい場所でもないわ。リベールみたいに穏やかでもない。でも、なんでもあるような、カオスさが魅力かしらね。」
「ふうん・・・。いろんなものがあるのかな。」
「ええ。」
「レンちゃんは、その、故郷が好き?」
「好きか、嫌いか、で言うと、嫌いじゃあないかなあ。面白い街ではあると思うわ。なかなか退屈しない場所よ。」
「じゃあ、ロレントはどお?」
「ロレントかあ。エステルには悪いけど、ぱっとしない田舎って感じよね。・・・平穏すぎて、ちょっとレンには。」
「え、平穏じゃ駄目なの?」
「ダメとは言わないわ。でも、レンにはあまり馴染みのない雰囲気で落ち着かない時もあるわ。」
「そうなんだ・・・。」
「じゃ、じゃあ、ツァイスはどう?」
「どう、って言われても、まだティータの家と工房に何度かお邪魔した程度だけど。そうね、ああいうごっちゃっとした街の方がレンは落ち着くわね。見るものも、遊ぶものもあるし。おじいさんの工房を思い出すわ。」
「おじいさんの工房?」
「パテルマテルが居る場所を提供してくれる、レンの協力者よ。」
「あ、そうなんだ。レンちゃんも、工房育ちなんだね。」
「そうね、ツァイスが肌に合うのは、そういう育ちだからかもしれないわね。」
「へへ・・・。そっかあ。レンちゃんにツァイスが気に入ってもらえて良かったな。」
「お待たせしました。ココナッツとドラゴンフルーツのジュースですわ。切り立てのマンゴーもご用意しました。父が戻ってくるまで、もう少しお待ちください。」
「あ、美味しそう・・・。でも、変わった形の果物ですね、わたし、初めてみました。」
「ふふ。南国特有の果実ですの。遠くから来た方は皆さん驚かれますわ。」
「いい香りね。おひとつ頂くわ。」
「ああ、美味しい。やっぱり南国って果物も甘みが強くて、自然の恵みであふれている感じですね。感動です!」
「ありがとうございます。ティータさんはとても笑顔が可愛らしい方ですわね。」
「え、えへへへ・・・。ありがとう。あの、リスイさんはとっても上品な方ですよね。同じ歳ってお聞きしましたけど、大人っぽくて、ちょっと羨ましいです。」
「あら、ありがとうございます。でも、わたくし、お客様をお迎えできて、少し緊張していますの。だから、少しだけ、猫をかぶっているかもしれませんわ。」
「えええ!そうなの?でも、それでも、同じくらいなのに、やっぱり立ち振る舞いっていうのかな、洗練されている感じがします。ステキだなあ。」
「ほめられると少しテレますわ。」
「猫かぶってらっしゃるとおっしゃることは、普段はもう少し、賑やかで奔放なところもあるのかしら。」
「うふふ。そうですわね。わたくし、母には止められていたのですが、いつも家を抜け出しては、動力ボートで沖へ行きますの。海洋写真家としてはそれなりの腕もあると自負していますのよ。」
「海洋写真ですかあ!それって、熱帯魚とか、ウミガメさんとか、サンゴとかを撮影するんですか?」
「ええ。毎日、海に出ては、ウミガメがどこに居たとか、サメやイルカ、クジラなどの位置を把握していると、情報ごと観光センターに買い取ってもらえますの。いいお小遣い稼ぎにもなるんですのよ。」
「それは、素敵なご趣味ね。でも、思っていたよりリスイさんはアクティブな方だったのね。意外だわ。」
「母には女は家に居るべき、潮の流れによっては危険な場合もある深海へ行くなんてとんでもないと、よく怒られていたものですが。」
「でも、海の中はとても綺麗です。私は、碧い海に魅入られてしまった人間なのね。」
「・・・。そういえば、奥様もお出かけされているのかしら。」
「いえ・・・。その、母は、居ないのです。・・・留守にしていまして。」
少しリスイの声が曇った。戸惑うような顔色を見せる。レンは深く聞いてはいけなかった話題だと、引くことにした。
「あ、そうなんですね。」
その時、車が近づいてくる音が聞こえてきた。
「ただいまー。」
落ち着いた低音ボイスが入り口から響く。
「あら、玄関口から声が聞こえましたわね。父の帰宅かしら。」
「おかえりなさいませ、お父様。」
「ただいま、リスイ。」
迎えに玄関口へと向かったリスイに対して、扉の向こうからダンディーで優しいな声が聞こえた。
「こちらは、リベールのZCFからいらしたティータ・ラッセル嬢と、レン・ブライト嬢ですの。」
「あなた方が。ようこそアサト諸島連合国へ。歓迎致します。私は、アサト首相を務めておりますシェン・ルエンと申します。」
「ティータ・ラッセルです。」
「レン・ブライトと申します。」
アサト首相は、国と首長としては、若干若い印象を受けた。年齢的には目算すると50歳くらいだろう。
少し白髪が混じってはいるが、黒さも目立つ髪がしっかりと生えており、目にも力があった。
レンは、その壮年の政治家を見上げて、思う。
サイオン博士といい、野心的な人物の多い土地柄だと。
逆に捉えれば、ある程度競争意欲がないと、厳しい土地柄というわけだろう。
穏やかなリベールとは、また違う。
それは、二人の少女を比較しても明らかであった。
朗らかで、純粋無垢そのもののリベール育ちのティータと、
上品で、所作の洗練された、親には厳しく躾られたというアサト育ちのリスイ。
定まった土地に定住出来ずに、運命に翻弄され続けたレンは、自分をも振り返る。
ならば、自分はどう見えるのだろう。リベールでもアサトでもなく、純粋なクロスベル育ちでもない。
育ちは透けて見えるものだ。
レンは、所詮は楽園とウロボロスで育った少女であり、自分はそれ以外の何者にもなれないのかもしれない、と考えた。
テイウの運転する動力車に乗って、5分ほどで首相邸には着いた。車は海とは反対方向の山が見える方角へ向かい、やがて高台に白く重厚で、伝統的な石造りの豪邸が見えてきた。
車を降りて、大理石の豪華な家屋を見て、ティータは声が震える。
「こ、ここが首相さんのお家ですか。わたし、緊張してきました。」
レンは、反対に一国の首長の家が、私邸とはいえ、ずいぶんと一般的な規模ことに驚いていた。二階建てで、上流階級の家としては普通程度だった。むしろ庶民的とすら言えるだろう。大きさとしては、クロスベルのレンの実家の程度である。マクダエル邸よりは小さいくらいかもしれない。
リベールでも、ボースやグランセルあたりではこの規模の豪邸はそれなりに見られる。
車を降りると、家の前にティータやレンと同年輩程度の年頃の少女が立っているのに気付いた。
ティータとレンに気付くと、丁寧にお辞儀をする。
少女は、淡い桃色の入った栗色の髪を肩上で綺麗に切りそろえていた。ハーフテイルに髪を結い、耳上まで持ち上げて、白いリボンを結んでいる見るからに上流階級の可憐な少女であった。
ティータとレンに近づき、挨拶をしてくれた。
「はじめまして。ようこそいらっしゃいました。わたくし、リスイ・ルエンと申します。」
「あ、ティータ・ラッセルです。よろしくお願いします。」
「レン・ブライトですわ。よろしくお願いするわね。」
「ようこそ、いらっしゃいました。弟のショウキ・ルエンです。」
「うふふ。同じ年頃の少女がいらっしゃると聞いて楽しみにしていましたの。お会い出来て、とても嬉しいです。」
「わたしも、まさか同じくらいの女の子がいるなんて知りませんでした。嬉しいです!」
「リスイちゃん、ショウキくんも、久しぶりじゃの。」
「お久しぶりです。サイオンさん、テイウさん。」
「お荷物お持ちしますわ。」
「あ、コレ、けっこういろいろ入ってて重いんだ。いいよう。」
「ご遠慮なさらず・・・。」
「きゃ・・・。お、重いですわね・・・。」
「う、うん・・・。無理しないで・・・・・・。機械デリケートだし・・・。」
「くす。お気持ちだけ頂いておくわね。わたくし達これでも、それなりにパワフルなんですの。どうぞお気遣いなく。」
「・・・。お力になれず申し訳ありません。」
「その、こちらです。まずは、お部屋にご案内致しますね。二階の庭側のテラスをご用意しました。」
「男性のお二人は、僕がご案内しますね。一階のバールーム横に休憩室をご用意しましたので。」
「わああああ。立派なお部屋~!」
「れ、れんちゃん!ベッドがふっかふかだよお!!」
「そ、そうね。レンもこんなお姫様仕様のベッドは久々だわ。ちょっと、う、嬉しいかも。」
「きゃあ、レンちゃん!このシーツ、すっごいさわり心地がいいよう!」
「ちょっと、ティータ、あんまりはしゃがないで頂戴。それにしても、良い眺めね。テラス下のお庭と池もステキだけど、海までの一望は絶景だわ。」
「ほんとだー、わあ、すごーい。きれーーい!」
「ふふ。当家自慢のゲストルームでございます。気に入っていただけると、こちらも頑張ってセッティングした甲斐がありますわ。」
「ええ!リスイさんがセットしてくれたんですか。」
「ええ。お客様が同じお年とお聞きして、もう居ても経ってもいられなくて、お夕食もメニューはわたくしが選ばせていただきました。期待していてくださいね。」
「ご、ごくり・・・。」
「うふふ。そう言われると、お腹がいい感じに空いてきたわ。」
「では、ディナールームにご案内します。そろそろ父も仕事から帰宅してくる頃かと思います。」
「あ、はい!」
「こちらです。」
「うわわわ、なんか豪華~!わあ、綺麗なお花!!」
「こちらで少しおくつろぎ下さい。今ドリンクをお持ちしますわ。暑くて喉が渇いていらっしゃるでしょう。お待ち下さい。」
「ねね、リスイちゃんってお上品でしっかりしているよね。ちょっと妬けちゃうな。」
「あら、ティータはティータで素直で素朴で可愛らしいわよ。レンはティータはそのままで良いと思うわ。」
「・・・、レンちゃんもさ、こういう高級な雰囲気によく合うよね。いいなあ。ティータももうちょっと上品になるべきかなあ。」
「・・・、レンはただの背伸びよ。」
「ねね、レンちゃんって貿易商さんの娘さんだったの?」
「ああ、さっきの話ね。そうよ。」
「そ、そうなんだ・・・。えっと、どんなご両親?」
「・・・・・・。お優しいお父様と、綺麗なお母様だったわ。」
「ふうん。クロスベルって街に住んでいたんだよね。」
「そうね。」
「どんな街?」
「そうね、灰色の魔都、という表現が見事に似合う街よ。なんでも、ごっちゃに詰め込まれて、一気に肥大化してしまった。」
「マト?」
「そんなに治安がいい場所でもないわ。リベールみたいに穏やかでもない。でも、なんでもあるような、カオスさが魅力かしらね。」
「ふうん・・・。いろんなものがあるのかな。」
「ええ。」
「レンちゃんは、その、故郷が好き?」
「好きか、嫌いか、で言うと、嫌いじゃあないかなあ。面白い街ではあると思うわ。なかなか退屈しない場所よ。」
「じゃあ、ロレントはどお?」
「ロレントかあ。エステルには悪いけど、ぱっとしない田舎って感じよね。・・・平穏すぎて、ちょっとレンには。」
「え、平穏じゃ駄目なの?」
「ダメとは言わないわ。でも、レンにはあまり馴染みのない雰囲気で落ち着かない時もあるわ。」
「そうなんだ・・・。」
「じゃ、じゃあ、ツァイスはどう?」
「どう、って言われても、まだティータの家と工房に何度かお邪魔した程度だけど。そうね、ああいうごっちゃっとした街の方がレンは落ち着くわね。見るものも、遊ぶものもあるし。おじいさんの工房を思い出すわ。」
「おじいさんの工房?」
「パテルマテルが居る場所を提供してくれる、レンの協力者よ。」
「あ、そうなんだ。レンちゃんも、工房育ちなんだね。」
「そうね、ツァイスが肌に合うのは、そういう育ちだからかもしれないわね。」
「へへ・・・。そっかあ。レンちゃんにツァイスが気に入ってもらえて良かったな。」
「お待たせしました。ココナッツとドラゴンフルーツのジュースですわ。切り立てのマンゴーもご用意しました。父が戻ってくるまで、もう少しお待ちください。」
「あ、美味しそう・・・。でも、変わった形の果物ですね、わたし、初めてみました。」
「ふふ。南国特有の果実ですの。遠くから来た方は皆さん驚かれますわ。」
「いい香りね。おひとつ頂くわ。」
「ああ、美味しい。やっぱり南国って果物も甘みが強くて、自然の恵みであふれている感じですね。感動です!」
「ありがとうございます。ティータさんはとても笑顔が可愛らしい方ですわね。」
「え、えへへへ・・・。ありがとう。あの、リスイさんはとっても上品な方ですよね。同じ歳ってお聞きしましたけど、大人っぽくて、ちょっと羨ましいです。」
「あら、ありがとうございます。でも、わたくし、お客様をお迎えできて、少し緊張していますの。だから、少しだけ、猫をかぶっているかもしれませんわ。」
「えええ!そうなの?でも、それでも、同じくらいなのに、やっぱり立ち振る舞いっていうのかな、洗練されている感じがします。ステキだなあ。」
「ほめられると少しテレますわ。」
「猫かぶってらっしゃるとおっしゃることは、普段はもう少し、賑やかで奔放なところもあるのかしら。」
「うふふ。そうですわね。わたくし、母には止められていたのですが、いつも家を抜け出しては、動力ボートで沖へ行きますの。海洋写真家としてはそれなりの腕もあると自負していますのよ。」
「海洋写真ですかあ!それって、熱帯魚とか、ウミガメさんとか、サンゴとかを撮影するんですか?」
「ええ。毎日、海に出ては、ウミガメがどこに居たとか、サメやイルカ、クジラなどの位置を把握していると、情報ごと観光センターに買い取ってもらえますの。いいお小遣い稼ぎにもなるんですのよ。」
「それは、素敵なご趣味ね。でも、思っていたよりリスイさんはアクティブな方だったのね。意外だわ。」
「母には女は家に居るべき、潮の流れによっては危険な場合もある深海へ行くなんてとんでもないと、よく怒られていたものですが。」
「でも、海の中はとても綺麗です。私は、碧い海に魅入られてしまった人間なのね。」
「・・・。そういえば、奥様もお出かけされているのかしら。」
「いえ・・・。その、母は、居ないのです。・・・留守にしていまして。」
少しリスイの声が曇った。戸惑うような顔色を見せる。レンは深く聞いてはいけなかった話題だと、引くことにした。
「あ、そうなんですね。」
その時、車が近づいてくる音が聞こえてきた。
「ただいまー。」
落ち着いた低音ボイスが入り口から響く。
「あら、玄関口から声が聞こえましたわね。父の帰宅かしら。」
「おかえりなさいませ、お父様。」
「ただいま、リスイ。」
迎えに玄関口へと向かったリスイに対して、扉の向こうからダンディーで優しいな声が聞こえた。
「こちらは、リベールのZCFからいらしたティータ・ラッセル嬢と、レン・ブライト嬢ですの。」
「あなた方が。ようこそアサト諸島連合国へ。歓迎致します。私は、アサト首相を務めておりますシェン・ルエンと申します。」
「ティータ・ラッセルです。」
「レン・ブライトと申します。」
アサト首相は、国と首長としては、若干若い印象を受けた。年齢的には目算すると50歳くらいだろう。
少し白髪が混じってはいるが、黒さも目立つ髪がしっかりと生えており、目にも力があった。
レンは、その壮年の政治家を見上げて、思う。
サイオン博士といい、野心的な人物の多い土地柄だと。
逆に捉えれば、ある程度競争意欲がないと、厳しい土地柄というわけだろう。
穏やかなリベールとは、また違う。
それは、二人の少女を比較しても明らかであった。
朗らかで、純粋無垢そのもののリベール育ちのティータと、
上品で、所作の洗練された、親には厳しく躾られたというアサト育ちのリスイ。
定まった土地に定住出来ずに、運命に翻弄され続けたレンは、自分をも振り返る。
ならば、自分はどう見えるのだろう。リベールでもアサトでもなく、純粋なクロスベル育ちでもない。
育ちは透けて見えるものだ。
レンは、所詮は楽園とウロボロスで育った少女であり、自分はそれ以外の何者にもなれないのかもしれない、と考えた。
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