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Falcom・軌跡シリーズの同人小説サイトです(;'ω')ン 主役はレンで、時期は零の軌跡後です。
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第二話 「エステルからの課題」

(2-1) 賑やかな夕食準備

夜には、エステルもヨシュアもカシウスも、ブライト家の皆がロレントに帰ってくる。三人とも外せない仕事が入り外泊になりそうな場合も、お互いに調整して、誰かがロレントには戻るようにしているようであった。そうでなければ頼まれたシェラザードが泊まりに来る。皆、レンを一人にして寂しい思いをさせまいと気を使ってくれているのだ。
レンは自分がまだ他人に甘えても良い子供なのだと、久々に自覚するようになった。

その日の晩も、いつも通りに三人とも帰宅してきた。
今晩の夕食の担当はヨシュアであり、安定して美味しいものが食べられる、アタリの日である。ご飯の担当は三人で日替わりとなっており、レンはいつも手伝いに回る。手伝わなくても、別に怒られもしない。
レンは日々気ままに過ごしていた。

いつもは、ギルド支部に居れば、早くロレントに戻った誰かが迎えに来る。そのまま一緒に夕ご飯の買い出しに街を歩く。
その日は、レンは旅支度のために早めに帰宅していた。

鞄に必要な道具をつめ、レンは自室の端末から無線を飛ばして、パテル=マテルとの通信を開いた。ロレントに来る際、パテルマテルの居場所を確保することが難しいために、泣く泣くクロスベルにパテルマテルを置いていくことにしたのだ。長期間も雨ざらしでは可哀想だと思ったのだ。だったら、おじいさんの工房の方が彼にとっても居心地が良いだろう。
レンはブライト家の屋根に急ごしらえで自作のアンテナを立てたが、不調法な暗号化も組み入れた関係もあり、電波状況は良くはない。それでも、パテルマテルと遠距離通信をすること程度の事は可能になっていた。

レンがアサト諸島へ旅行に行くことを話すと、パテルマテルもアサトまで自分で行くという。少しの期間ならば、人目のつかない郊外の林や廃墟あたりに隠れていれば大丈夫だろう。パテルマテルと実際に会えるのも久々となり、レンは旅行が楽しみでしかたない。

二人で旅行についての雑談が盛り上がる。話していると、ついつい夢中になっていて、日が暮れたことにも気付けなかった。
気が付くとエステルとヨシュアの明るい声が玄関から聞こえた。エステル達はいつでも騒々しい。
「たっだいまー、レン!」
「ただいま。」

レンはパテルマテルと別れて、玄関口まで迎えにいく。お腹が空いていたのだ。
「おかえりなさい、今日のメニューは何かしら。」
二人はいつもどおりに夕食の材料を買い込んでいた。ヨシュアが応える。
「ルーアンから海産物が手に入ったと、新鮮な白身魚を購入出来たから、『潮風のスープパスタ』にしようかな。手伝ってくれるかい?」
「ええ、いいわよ。」

レンは料理が得意ではない。でも、夕食の支度を手伝っていると皆が喜んでくれるのだ。お互いに一日に何があったかを、賑やかにおしゃべりしながらの料理はレンにとっては物珍しく新鮮で楽しい時間となっていた。一ヶ月で少しずつ手伝える内容も増えてきて、調度やりがいを感じ始めたところだ。

エステルは今日は夕食当番でないので、帰宅直後から使ったスニーカーの手入れ作業に移っている。レンにはよく分からないが、エステルにとってスニーカーとは単なる靴ではなく、ロマンの象徴らしい。一度熱く語られたが、理解できなかったので、レンからはその話題には触れないようにしていた。

レンは真剣な目つきで調味の量を調整する。その様子を、ヨシュアが後ろから見守りながら、間違っているとさりげなくフォローしてくれる。調味が終わり、ほっとしとたところにヨシュアが後ろから声を掛けてきた。
「レン、今日の昼間は急な話でごめんね。」

レンはフライパンから目を離さずに会話に応じる。強火で手早くが基本とは言っていたが、まずは中火で作業の流れに慣れることから学ぶことをヨシュアは薦めてくれた。おかげで三回目のスープパスタへの挑戦だが、レンには若干余裕が生じてきている。
「いいのよ。久しぶりの遠出がとっても楽しみなの。」

上機嫌なレンの声は、ヨシュアを逆に不安にさせてしまったようだ。
「・・・。あんまり羽目を外しすぎないでね。」
「あら、ヨシュアは心配性ね、ちゃんとレンを信じて頂戴。」
後ろからヨシュアの苦笑が聞こえてくる。

「ティータと二人でお出かけするのも始めてなんじゃない?」
「そうなの!レン、技術の話が出来る同じ年頃の友達なんて始めてで、嬉しいわ。」
料理中はそちらに神経が集中されているのか、会話の受け答えが妙に素直である。
「ティータがアサトに行くのが始めてなら、レンのお勧めのジェラード屋さんを教えてあげようと思うのよ。」
こういう話で無邪気にはしゃぐ様を見ると、レンも年頃の少女に見える。

「レンが受けてくれて助かったよ。昼間に、たまたまシェラさんとアガットさんと合流した時に、みんなスケジュールが詰まっているから、ティータの件は心配だから諦めてもらおうかって相談していたんだよ。」
「あら、そうなの。でも、ティータが折れなかったんでしょう。」
「・・・。良く分かるね。アガットさんが止めようとしたんだけど、ティータ本人が解析に行きたがっていて、ラッセル博士もエリカさんも結果の方が気になるみたいで、一人でも出かけそうな勢いだったよ。」
「ああいう研究一筋のところは、やっぱり血筋なんだね。」
ヨシュアが笑うしかないと、はにかむ。

「誰も来れないのなら、レンちゃんはどうかな、っていうのはティータからのオファーだったんだ。」
その経緯は初耳であった。
「あら、そうなの。赤毛のお兄さんあたりが心配しすぎて、誰でもいいからって勢いで声がかかったのかと思ったわ。」
「うーん、どちらかとうとアガットさんはレンに対しても心配してそうだったかな。」
「あら、どうして?」

ヨシュアの声が曇る。言葉を濁して答えを教えてくれた。
「そりゃ、まあ。・・・レンが裏社会に詳しすぎるからじゃない?」
ははあ、とレンは心得た。
「あら、レンが信用されていないのね。」

要は、レンが裏切るんじゃないか、結社に戻るんじゃないかと疑われているのだ。
確かに、レン自体はどちらでもいいんじゃないか、と思っているくらいだ。クロスベルでの事件後の流れから、なんとなくエステルについてきてしまった。レンには、きちんと表の世界で生きていく覚悟がないのだ。
痛いところをつかれている、とレンは思った。思わず溜息が出た。

「・・・。レンも、自分で決めなきゃね。」
レンが小さくつぶやいた。
「・・・。レン。」
ヨシュアにはレンが何を悩んでいるのか分かっている。でも、それはレンが自分で決断すべきことだ。他人には手伝えない。エステルの元でレンが自分の生き方を見つけられるのか、やっぱり裏社会に戻るのか。それは、レンが自分で割り切るべきことなのだ。同じ立場で長く葛藤したヨシュアには、その悩みが痛いほどに分かった。

ヨシュアは優しく口元を歪める。
「とりあえず、今回はティータと気楽に楽しんでおいでよ。」
ヨシュアに出来ることは、見守ってあげることだけだった。助けを求められたら、主観を述べることは出来る。でも、そんな簡単な問題でもないことは、当人でもあるヨシュアもよく理解していた。エステルやヨシュアが出来ることは、レンが自分の居心地のよい場所を見つけられるようにサポートすることくらいだ。最後に感じ取るのは他の誰でもない、レン自身でなければならなかった。
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