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Falcom・軌跡シリーズの同人小説サイトです(;'ω')ン 主役はレンで、時期は零の軌跡後です。
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(1-3) ツァイスからの相談

そんな折である。ギルドの電話が突然に鳴り響いた。
ジリリリリリ!ジリリリリリ!

昔ながらの金属音を軋ませて、電話の鐘が建物中に鳴り響く。
アイナは慌てて、階下へと降りて受話器を持ち上げた。

「もしもし、こちら遊撃士協会・ロレント支部でございます。」
アイナの声も仕事モードへと一転する。
レンは午後のちょっとしたおしゃべりタイムが去ったことを理解した。

そのまま電話口の声に耳を傾けながら、レンは食器を洗い始める。
大事なお茶器セットは丁寧に洗っていかないと、汚れが付着してしまう。
昔からヨシュアがその辺りに凝る性格であったため、レンも食器の手入れには自然と気を配るようになっていた。

「あら、シェラザード、何かトラブルかしら。」
「まあ、アガットも一緒なのね。」
お茶セットを片付けながら、階下から電話での会話が所々聞こえてくる。
アイナの落ち着いた声音から予想すると、どうやら緊急事態というわけではなさそうだ。
レンはいい運動が出来るかもしれないと、少し期待したことを後悔した。

「なあに、エステルとヨシュアも揃っているの。何事?」
「ああ、その件、たしかに中央工房から依頼があったことは私も聞いているわ。」
どうやら、リベール支部の若手総出で何やら悩み事らしい。
「担当者はまだ目処がついていないのよね、ちょっと工房の方でも実際の担当については決まりきってはいないようであったし、
地域についても、そうね、随分と遠いものね。主力を割くには厳しい状況と言わざるを得ないわ。」

お菓子を片付けて、レンは再び通信機器立ち上げの作業に戻る。
ツァイスからの連絡ならば、用事が済んだ後にティータから部材を受け取ってもらおうかしら、とレンは思い付いた。
そういった都合もあって、レンは更に会話へと耳を傾けていった。

「まあ、そうなの。正式にティータちゃんが担当することになったの。ええ、エリカ博士もラッセル博士もしっかり同意しているのであれば、ギルドからは特に言うことではないわ。良い経験になるでしょう。」
どうやら、話題はティータに関することのようだ。
レンは会話の内容そのものに興味が湧いてきた。
ZCF、つまりツァイス中央工房、の開発プロジェクトに関してギルドで協力している案件があるのだろうか。

「え、あ、ああ、そうね。確かに。そういう手も打てるわね。うーん。でも、能力はともかく、表向きにあちらを納得出来るかしら。サイオン博士は、ラッセル博士の古い馴染みで、ツァイスとしても付き合いの長い重要人物だと、聞いているわよ。」
アイナの声が渋ってきた。
なにやら、困り事のようではある。
「そうなのよねえ、ギルドも人手不足、中央工房も人手不足となれば、背に腹は変えられないかしらねえ。リベールもまだ、一昨年の混乱から立ち直りきってはいないんだわ。そんな状況で隣国の情勢不安を重なれば、人材を割く余裕はとてもないわ。」
「でも、どうかしら。アサト諸島ってけっこう遠いのでしょう?そんな場所にあんな若い子が大丈夫かしらねえ。」

ところどころ聞こえてくる会話をレンは脳内でまとめていく。
どうやら、ティータがZCFの案件で、アサト諸島に行く、という事が議題になっているようである。
アサト諸島といえば、南国のリゾートで有名な観光地である。
ゼムリア大陸の南の外れにある『常夏の楽園』である。

常夏の楽園、というと響きは良いが、カルバート共和国とエレボニア帝国間の貿易船での中継地点ということもあり、昔から両国間での領土争いが激しい地域であり、独立した今となっても情勢は安定はしていない。
有名な緩衝地帯でもあることから、近年特に治安は悪化してきていた。

観光産業とともに、貿易の中継から産み出される莫大な資金と、大国の緩衝状況を背景に、大小さまざまな犯罪組織が蔓延っている。
レンも去年レーヴェと一緒に仕事の関係で訪れたものだ。
闇市などもクロスベル並みに発展しており、戦闘用物資の補給に関しても文句のない土地柄であった。

そんな場所に世間慣れもしていない、幼く可愛らしいティータを仕事で行かせることに対しての心配が話題であるらしい。
そこまで考えて、レンは思い至る。
ギルド内で通信機器まで使用して、この忙しい時期に主力部隊が集まってまで議論しているのは、ただ心配、という内容なだけではないだろう、と。
要するに、先ほどから電話で揉めている件は、ティータを一人で治安の悪い海外へ行かせるのが心配だが、護衛で一人出せる程にギルドの仕事に調整がつくかどうか、について相談しているのだろう。

「ちょっと今すぐは難しいわねえ。その件、サイオン博士からこちらに運んできて戴くというのは厳しいのかしら。」
アイナとしては、いきなりでは無理だ、という判断のようである。
電話口の向こうでは、その結論に対してアガットが噛み付いているのが聞こえてきた。
アガットからしてみれば、ティータを一人で海外へ行かせるなんて、とんでもない話なんだろう。

「ああ、そうなの。確かにね。発見された現地での解析がいいのでしょう。そこは素人が口を出せるような内容じゃないわね。」
アイナとしても、安易に譲れる状況ではないらしく、ツァイス側に譲歩を迫っている。

「ええ、レンちゃん。支部内に居るわよ。相変わらず機械いじりをしているわ。そうなのよね、状況を考えると能力的には申し分のない人材だとは思うわ。あとは本人達と先方が納得するかどうか、かしら。」
レンは突然自分の名前を呼ばれたことでアイナの方へと振り向いた。
一階方向へと階段を覗きこむと、階下でアイナが手招きしている。
「レンちゃん、ちょっとごめんなさいね。エステルから電話が入っているのだけど、出れるかしら。」

その一言でレンは電話の用件を理解した。
(なるほど、そういうことか。)
「ええ、出れるわ。」
レンは返事をして、電話のある一階へと降りていくことにした。
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