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Falcom・軌跡シリーズの同人小説サイトです(;'ω')ン 主役はレンで、時期は零の軌跡後です。
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(3-2) 空の上にて

レンとティータもまた、飛行艇に乗り込んだ後も、見送りの一行が見えなくなるまで窓の外を見ていた。
エステルが機体を追って、走り出したのが見えた。
レンもまた、情けないことに寂しさを感じていた。
出かけるまで、何も不安はなかったのに、実際に離れてみると寂しいなんて子供みたいだ、とレンは自分を笑った。

機内ではずっとティータが話をしてくれていた。
ラッセル博士に言われて持ち込んだ装置についてだとか、持ってきたお菓子を分けてくれたり、観光ブックを熟読した成果を披露してくれたりもした。



アサト諸島連合国は、ゼムリア大陸の南東端、カルバート共和国とエレボニア帝国間の貿易船が通るルシアナ海峡を抜けた先にある島国の集合体である。
諸島の中で一番大きな島はアマラーダ島という。アサトでは他の島と分けて、アマラーダ島のことを本島と呼ぶ。また、アマラーダとは、アサト諸島連合国の首都という街の名前でもあった。本島アマラーダの北端、大陸側の湾岸に大きく発達した、大陸有数の貿易都市でもある。

アサト諸島は、古くから海港貿易の拠点として栄えていたが、その戦略的にも重要な立地のために、数々の戦争にも振り回された苦難の歴史を持つ地域である。

元々は、リュウキ王朝という独特の現地国家があり、近代のように大型船や飛行艇の発達前は、独自の文化と大陸文化の影響と二つの色を調和させて、長い繁栄を続けてきたという。

それが、カルバード側に平定されたのは約百五十年前と聞いている。
しかし、百年程前のカルバードの民主化革命時の混乱に乗じて今度はエレボニア帝国に占領された。その後、帝国自治州として一応の自治権を獲得するものの、帝国貴族の厳しい税率に耐えかねて暴動は頻発していた。
約30年前に市民からの一揆に乗じて、カルバード共和国が再び覇権を取り戻すものの、また腐敗した役人政治に住民は苦しめられた。

その後、20年程前に過激な独立運動の末に独立を果たす。しかしながら、長期化したゲリラ戦で住民は疲れ果ており、独立後の自由を求めて移住してきた豪商たちの大金に経済はまたたく間に掌握されて、現在に至るまで貧富の差の大きな土地となってしまっていた。実は武器商人の壮大な陰謀だっただの、影で暗躍する化学薬品メーカーがあっただの、今でも様々な噂が飛び交っている。

そのあたりの歴史的な背景は、傭兵団と仕事をした関係もありレンも知識としては知っていた。また、出発後の機内でティータが観光ガイドを片手に、事前知識として読んで教えてくれた内容でもあった。今回のティータの仕事は古代遺物の解析であり、歴史背景を勉強しておくのも、現地での遺跡調査に役立つだろうと、仕事熱心なティータが仕入れていてくれた情報だった。

「今回発見されたアーティファクトは、そのリュウキ王朝の時代の遺物なのかしら?」
しんみりとした頭を切り替えようと、レンは少し真面目な話をもちかけてみた。

「ううん。その、ややこしいのだけどね、リュウキ王朝自体はそこまで古い王朝ではないみたい。七耀暦以前の古代ゼムリア文明の流れを組んでいた文明は別の国家だったと類推されているんだって。一般には、その国家のことを古代リュウキ文明として、近年のリュウキ王朝とは分けて考えるのが、主な説みたいだよ。」
レンの問いに対して、ティータは丁寧に解説してくれた。

「そう。古代リュウキ文明、というのね。」
ティータの説明に応じて、レンは相槌を打った。
「うん。ただ近年のリュウキ王朝は、古代文明を神聖視していることもあって、古代文明の遺跡の周りに更に神殿を立てたりしていたんだって。だから、明確に古代文明と王朝の遺跡の差が分かりにくくなってしまっているみたい。」

「あら、改築が趣味だったのかしら。それとも虎の威を借る狐、かしらね。」
ややこしい歴史背景の説明に対して、レンは皮肉な感想を述べた。

現代の動力技術においても、古代文明を越える程の技術は達成出来ていない。よって、古代文明の威光に縋る部分はどんな国家にも多かれ少なかれはあるものであった。その流れを汲むとされるリベール王国も例外ではない。また七耀教会は、より分かりやすい形でその威光に頼っている。

結社ウロボロスもそれは同じであった。十三工房の技術力は、エプスタイン・ラインフォルト・ヴェルヌ・ZCFを超越する高い水準を誇る。だが、それでも、アーティファクトを越えはしない。ローゼンベルク工房のヨルグ老人も、アンギスでもあるノバルティス博士も、アーティファクトの制御能力は高くても、その理論については解析しきれていない部分も多かった。少なくとも、レンが身に着けた知識においてはその程度である。レンの主観では、そう捉えられていた。

レンは、古代文明の威光を借りて国家を保っていたという、リュウキ王朝に少し興味が沸いてきた。
七耀教会の影響を受ける表社会とも、七耀教会を否定する結社とも違う視点があったのではないか、と考えたのだ。大国に脅かされ続けた、小さな島国が頼ったものとは一体何だったのだろうか。

レンは、そこにただ大学に行って技術職につくわけでもなく、ただエステル達について遊撃士を目指すわけでもない、また蛇に戻るわけでもない、別の道が拓けてくる可能性を感じていた。



ふっと横で観光ガイドや、歴史本を読むティータが口を開いた。
「レンちゃんは、アサト諸島に来たことがあるの?」
我に返ったレンは、素直に返事をした。
「ええ。何度か。」

「ふうん。それは、その、前のお仕事で?」
「ええ。仕事もあったし、そうでないこともあったわ。」
「そうでないこと?観光ってこと?」

「そうね、レン自身は観光っていうのが近いわね。レンが仕事がない時に、レーヴェがこういう場所で仕事をしていたら、レンは大体遊び目的でついて行っていたわ。」
「あ。あのお兄さんに。」
「ええ。」

「・・・ねえ、レンちゃん。」
「何かしら。」

「その、レオンハルトさんってどんな人?」
「レーヴェ?強かったわ。」

「・・・そのう、ヨシュアお兄ちゃんの、お兄さんみたいな人なんだよね。」
「そうね、小さい頃からずっと一緒だったって聞いてたわ。」

「えっと、優しい人?」
「うん。とっても優しいわ。」

「そうなんだ!えっと、ティータにはこう、ぶすっとした表情が残っているんだけど、レンちゃんの前だと笑うの?」
「レーヴェが?そうねえ。あんまり笑った顔を見たこと無いわ。」
「え、じゃあいっつもしかめっ面なの?」

「しかめっ面・・・。違うわ、ティータ。あれは、クールっていうのよ。」
「クールっていうんだね。」

「レンちゃんは、レオンハルトさんのことが、すっごく好きだったんだね。」
「ええ!」
「どういうところが好きだったの?」
「うーん、優しいところかしら。」

「・・・でも、レーヴェの笑った顔なんて、レン、ほとんど見たことないわ。」
「そうなんだー。」
「そういえば、ヨシュアの笑った顔も昔は見なかったわね。」
「え、そうなの?」
「・・・だから、久々にヨシュアを見た時は驚いたわ。」

「ふうーん。それってさ、エステルお姉ちゃんのおかげかなあ。」
「そうかもね。」
「ヨシュアお兄ちゃんも、すっごく辛い事があったんだよね。」
「そうね。」
「でも、エステルお姉ちゃんが、ヨシュアお兄ちゃんを沢山元気にしてあげたんだね。」
「・・・・・・そうなのかも。」

「・・・。レンちゃんも、悲しい事があったの?」
「・・・・・・・・・・・・。悲しい事くらい生きていればあるわよ。」

「そっかあ。」
「・・・・。」

「えっと、どういう事があったのか、聞いてもいい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。なあに、ティータ。レンに興味があるの?」

「あ、うん・・・。」
「あら、どうして?」

「えっと、その。レンちゃんがどういうことを考えているのか知りたくて!」
「レンはいろんな事を考えているわ。」

「そ、そうだよね。うん。いろんなこと知ってるもんね。」
「でも、私はね、レンちゃんの・・・。」

「ん。」
「えっと・・・。」
「なによ?」
「・・・う、ううん。なんでもない・・・。」

ティータは、ヨシュアを元気にしたのがエステルなら、レンを元気にするのが自分になれれば、と思ったのだ。
でも、言い出せない。
レンの抱える問題は、きっとあまりに大きい。
たぶん祖父や両親そして工房の皆に囲まれて育ったティータには、力になれないんじゃと気後れしたのだ。

でも、それでも、ティータはちゃんとレンと向き合いたかった。
レンが苦しんでいるなら、レンを支えてあげたいと、誓ったのだ。
だから、ここで諦める気はなかった。

けれど、レンの全部を支えてあげることは難しいことも、なんとなくだけど分かっていた。
そんな簡単な問題なら、エステルやヨシュアがあんなに苦労して追いかけたりもしない。

そういった事情でも、レンはエステルと共にリベールにやって来た。
レンには、その問題と戦っていく勇気があるのだ。
ティータは、その気持ちを大切にしてあげたかった。
ただ、その為に自分に何が出来るのかも、分からない。

ティータはレンを理解したかったのだ。



レンもティータの質問意図は理解していた。
だけど、『どういう事』かを、純粋無垢なティータに話すのは気が引けた。
言葉を濁して、かいつまんで話すことは可能だろう。

だけど、レンは怖かった。
隠した言葉の裏に潜んだ真実にティータが気付いてしまうことが怖かったのだ。
レンが汚れた子供であることを、知られたくなかった。
レンと、ティータが、全く別の存在だと知られたくなかった。

レンは自分を恥じていたのである。

全てを知られた時、そこにある大きな壁に気付いてしまうよりは、話さない方が良いこともある。
レンはそういう信条だった。



そのまま二人は、無言で機内を過ごした。

久々の空の旅となり、窓から雲間を眺めて、レンは少し前を思い出した。

グロリアスに乗っていた頃は、周りも賑やかだった。
レーヴェも構ってくれたし、ルシオラやヴァルター、ブルブラン、カンパネルラ、教授・・・。
教授やカンパネルラは計画がどうとか忙しそうだったものの、他の執行者にとっては所詮はお祭り騒ぎみたいなもので、大人数で無駄にはしゃいで楽しんでいたりしたものだ。
刹那的な刺激を求める面々ばかりで、それは船の上の暇つぶしでも同じだった。ブルブランやルシオラはカード遊びでも何でも乗ってきてくれたものだった。簡単な手品も教えてくれた。

それが、ちょっと前の事である。あの頃は、レンは結社を抜けるなんて考えてもいなかった。
歩いてきた道以外、余所見をしては自分が潰れてしまいそうな事を本能的に理解していたのだろう。

ふっと隣の座席に目を移すと、はしゃぎ疲れたティータが小さな寝息を立てていた。
安心しきった可愛い寝顔だ。
レンはちょっと悪戯をしたくなって、ティータの鼻をつまんでみる。
「うぅん・・・。」
ティータは寝返りを打ったものの、また寝入ってしまった。

グロリアスに乗っていた頃は、自分が誰かを攻撃するのではなく、誰かを守る立場になるなんて考えもしなかった。命は儚く散るものであって、それを惜しんではいけなかった。血の色だけがレンを酔わせていく。

『ヨシュアは何故戻ってこないの?』と聞いたレンに対して、レーヴェは『時が移れば立場も変わる。』とかレンには理解不能の事を言っていた。霧鐘にエステルが憎たらしかったものだ。レンはただ、ヨシュアとレーヴェの二人に傍に居てもらいたかったのだ。

(ああ、なんだかセンチメンタルだわ。)

レンは、自分が感傷的になっている事に気付いて、頭を振る。過去を振り返っていても、何も変わらない。レンにだって、そんな事は分かっている。空を見て、感傷的になるには、まだ早い。レンの先はまだまだ広がっているはずだった。

雲海の隙間から、青々として海に反射する光が零れている。
考え込むのはやめようと、目を瞑った。
レンは、そのまま眠りへと落ちていった。

「レンちゃん、レンちゃん、見て!」
ティータの声がする。

再び目覚めた時、直下にはセルリアンブルーが広がっていた。
飛行機の羽の下に見える、蒼く澄んだ圧倒的な海色。
水面は強い太陽の光を反射して、眩しい程だった。

「レンちゃん、海だよ!」
「・・・綺麗。」

「もう到着の時間?」
「えっとね、ようやくアサト諸島に近づいたところで、すぐに本島が見えてくるって。」
「本島が見えてくる頃には、高度を落として着陸するんだって。だから、そろそろ衝撃に備えて下さいってアナウンスがあったよ。」
「そう。」
随分寝ていたものだ。しばらくぶりに夢も見なかった。レンもはしゃいで疲れていたらしい。

飛行船は次第に高度を下げていく。
青碧色の澄んだ南国の海の色。
遠くの海だけが次第に青が濃くなっていく。
空の上からでも、海の底が見えるくらいに透明感をはなっている。

どこまでも続く空。
真っ白な砂浜。
黄緑の生い茂る植物。
そこは、南国であった。

レンは、目を細める。
一年ぶりに、来た夢の国。
いまはただ、遠い昔のことのようで、ただあの頃が懐かしかった。
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