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Falcom・軌跡シリーズの同人小説サイトです(;'ω')ン 主役はレンで、時期は零の軌跡後です。
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(2-2) アンクレットのデータ

「そういえば、アサト諸島の治安は、最近でもどんどん悪化していると聞いているから、そのあたり気をつけてね。」
「ええ。気をつけるわ。」
「レンは、最近もよくアサトに行っていたのかい?」
「そうね、レンはそこまで頻繁に行ってはいない方ね。一年ちょっと前くらいかしら、レーヴェの用事に付き合ったきりだと思うわ。」
「レーヴェと一緒に行ったんだ。」
「ええ。レンは暇を持て余したら、レーヴェの仕事について行っていたわ。レンが来ると、レーヴェもレストランや買い物に付き合ってくれるのよ。」
レンは懐かしそうに目を細める。もうレーヴェとは一緒に出かけられない。少し寂しそうな表情を見せる。その横顔をヨシュアは切なそうに眺める。
「そうか・・・。」
ヨシュアには、気ままなレンに振り回されるレーヴェの姿が、鮮明なくらいに想像出来た。

レンはおぼろげな思い出を、頭の片隅から引っ張り出していく。
「でも、最期の用事は一体何だったのかしら。まるでレーヴェは普通に観光に来たみたいにロッジのデッキで涼んで、砂浜を散歩しているだけに感じたわ。」
あの時、レンは新作のぬいぐるみの発売時期とも重なりショッピングに夢中であった。アサト諸島の仕事は、大抵は観光に来た大国の要人や、密貿易の取引にきた商人単体を狙う仕事が多かった。レーヴェの用事もそういったものだろうとレンは内容を気にもしていなかった。自分はオフの間で遊びにきて、構ってもらいたかっただけだったからだ。

「レーヴェと、また海に行きたいなあ。」
思わず、呟きが口から出てしまった。
もう、適わない望みだ。
「・・・そうだね。」
ヨシュアも別に否定はしなかった。しても仕方のないことだからだろう。

スープパスタから潮風の香りが立ち始める。
その効果もあって、ちょっと前のことなのに、やけに懐かしかった。
大きな手が優しく頭を撫でてくれる、そのくすぐったさが久しぶりに思い出されて、なんだか切なかった。

レンは、夕方から気にしていることをヨシュアに相談してみることにした。
「そういえば、レーヴェがいつも身に着けていたアンクレットがあったじゃない?」
「ああ、うん。」
「ヨシュアがお姉さんの形見だっていうハーモニカに付けて、持ち歩いているヤツ。」
「あれについて、さっきパテルマテルが気になることを言っていたわ。」

パテルマテルとは次世代型の自立思考型ロボットで、レンの長年の相棒でもある。
レンは、その最新技術の精鋭である人工知能と意思を疎通させることが出来るという、不可思議な特技を持ち合わせていた。

「気になること?」
「ええ。なんだかパテルマテルの外部記憶領域にアンクレットの画像データが埋め込まれていたみたいなのよ。」
「後からインプットされたってこと?」
「ええ。どうやら、日付を解析していくと、一年前くらいに残されているみたいなのよね。」
「へぇ。」
「まさか、博士じゃないでしょう。おじいさんも心当たりはないみたいだし。レーヴェが意図的にパテルマテルに遺したんじゃないかって、パテルマテルが言うのよ。」

「・・・。それって、そのことに今頃彼自身が気づいたっていうこと?」
「うん。そうみたいなのよねー。レンだって全てのメモリを整理しきれていなかったし、それはパテルマテル本人も同じみたいなんだけど。それでも、誰も気づかなかったってことがあるのかしらって思って。」

「・・・。パテルマテル自身も気づかないうちにデータをいじるって可能なの?」
「そうなのよねぇ。パテルマテルが言うには、入れ替えた記憶自体を自分で削除したんじゃないかって想像するのよ。」
「どういうこと?レーヴェに頼まれて、パテルマテル自身がそのデータ自体の存在を意図的に忘れたってこと?」
「そう。つまり、レーヴェの依頼理由に対して、パテルマテルは納得した、ということだわ。」

「・・・。ふうん。つまり、レンのためになるって思ったっていうことかな。」
「レンのためかは、どうか。でも、理解できる動機だったんでしょうね。」
「もしくは、なんらかの取引があったのかな。」
「うーん。」

ヨシュアも随分興味を引かれてきた。あの淡々とした性格のレーヴェが単なる悪戯目的だったとは思わない。レーヴェとパテルマテルが共謀して、何をしようとしていたのだろうか。
「そのデータって単なる画像データだけなの?」
「画像データなんだけど。レンがたまに風景とか、機材とか、クオーツとか、気が向いたものを日記のように写真に取り溜めしていたフォルダに置いてあったわ。つまり、レンがちょっと写真データを見返せば気づく程度の場所なの。二人で隠すほどの場所だとも思わないわ。」
「存在自体は隠したかったけど、近いうちにレンに気づいてもらう必要があったということかな。本当に何の変哲もない画像データなの?」
ヨシュアは首を傾げる。

「それが、ぱっと見ると普通なんだけど、認証コード部分に理解不能のデータ列が仕込まれているの。」
「データ列?」
「うん。どうやら、普通のウロボロス仕様のデータタイプではないわね。あえて言うならば、レンが昔に作った暗号化システムの認証コードに類似しているわ。」
「昔につくったもの?」

「うんー。けっこう前ね。もう五年くらい経っているかしら。レンが、博士とか蛇の連中にバレずに自分の遊び用のパーソナルデータを安全に保管するために、自分用に暗号化コードを組んで、そのシステムを他の人には内緒でパテルマテルに搭載してもらったの。だから、パテルマテルにはレンしかしらないレン専用コードがけっこう入っているんだ。」
レンがやりそうな悪戯だと、ヨシュアは思わず笑ってしまった。

「レンは趣味半分でその一部を流用して、写真データの管理とか、旅の記録とか、美味しいカフェについてとかのデータベースをまとめたりしていたの。その記録とシステムをレーヴェに見せたことがあったのよ。だから、そのデータベースにはレーヴェは自分でアクセスは出来たはず。レーヴェも一人で行った場所に、いいお店を見つけたりしたら、教えてくれたりしたのよ。」
つまり、密かに二人の情報交換ネットワークとなっていたわけだ。

「でも、アンクレットの画像はリストには出ないようになっていた。直接メモリにアクセスしないと見つからないように加工されていたわ。そして、特殊なコードが仕込まれていた。」
「その特殊なコードっていうのは、さっきレンが自分でいっていたデータベースの暗号化コードとは別物なのかい?」
「ええ。配列タイプや型は似ているけど、本質的には違うわね。同じ手法では解読出来ない。単なる画像データとしては解読できるけど、画像の切れ端のデータタイプが全然違うのよ。」
「ふうん。つまり、その端っこのデータだけはレーヴェのオリジナルだということかな。」
そこでレンは一瞬悩んだ。
「・・・。たぶん。」

「それは、後から気づいて、というなんらかのレーヴェからレンへの伝言かもしれないね。」
一体どんな伝言だろうか。まさか結社の実態に関するような伝言ではないだろう。
「うん・・・。もしくは、それを示唆するような内容かもしれないわね。データ量的には暗号化部分は微小だから精々一単語程度よ。文章を残すには足りないわ。」

それほどまでに、手をかけて、誰にも気づかれずに、レンだけに知らせたい内容があったということだ。
もしかしたら、それは、レンに対して単なる謎かけ遊び程度のものかもしれない。
でも、一年前という時期が気になった。
レーヴェはもしかしたら、死に場所を求めていたんじゃないか、とヨシュアは思う。
それなりの覚悟があってリベールに来ていたような印象を受けていた。彼が纏う雰囲気はそこだけ鬼気迫るものがあった。
だから、何か最後のお願いかそういったものじゃないか、とも想像した。
そういった個人的な依頼であれば、是非解読してあげて欲しい。

「レン、その暗号部分の解析は、けっこう手間どりそうなのかい?」
「うーん、さっきパテルマテルのデータベースを漁った時に気が付いたばかりだから、どうかしらね。」
レンも見当すらついていないようだ。

「食後にヨシュアもちょっと見てくれる?もしかしたら、ヨシュアなら読み取れる文字列なのかもしれないわよ。」
「どうだろう。あまり自信はないなあ。」
ここ五年あまりは、かなりの頻度で一緒に行動していた、というレンの方がちょっとした日常のヒントを持っているんじゃないか、とヨシュアは思う。
料理中にレンとヨシュアはそんな約束をとりつけたのだった。
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