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Falcom・軌跡シリーズの同人小説サイトです(;'ω')ン 主役はレンで、時期は零の軌跡後です。
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(2-6) 楽園の少女


善も悪も、生も死も超えたところを
淡々と歩いてきた。

幸も不幸も無い。喜びも悲しみも無い。

白と黒が私を切り裂いて、天と地が私を嬲って、
私は淫らになってしまった。

どこから始まって、どこで終わるのか。

私はどこにも属さない。
私は歩んではいないのだ。

ただ、世界が回っていた。



1.楽園

そこは<<楽園>>と呼ばれていた。

館の名前もあったのだろうが、
私たちには知らされていなかった。

もちろん楽園がどこにあるのか、
私たちは何をしているのか。

そして何故ここにいるのか、も。



クロスという少年は、いつものように
忙しく仕事にでかけて行った。

私の知らないところで、彼の凄惨な仕事は
毎日繰り返されているようだった。

いや、他の子供たちもみんな。

私の知らないところで、
子供たちは仕事をしていた。

何故か私には仕事が来なかった。
そう、一度たりとも私は仕事をしなかった。

他の子供たちが衰弱し、痩せ衰えていく中、
私だけはおいしいものを食べ
お人形で遊んでいればよかった。

私だけは、特別なのだ。

・・・・・・クロスは、私を”お姫様”と呼んだ。



その元気な子はエッタといった。

いつもにこにこ、好奇心旺盛で部屋中の
あちこちを突いてはクロスに怒られていた。

エッタは少しませている。
くだらない冗談を飛ばしては
クスクス笑うのが癖だった。



アジェは可憐で大人びた女の子。
だからオジさんたちの指名が多かった。

でもアジェは一切嫌そうな顔をしない。
そして手際よく仕事を済ませてしまう。



カトル、いつも殴られてばかりいる男の子。
体が小さいせいか、いつだって
お人形さんみたいに遊ばれていた。

カトルはいつも見えないところで
血を流していた。

それは多分、おまじないのひとつだった。
きれいな人は、きっときれいな血を流すのだ。



そしてクロス。
彼が私たちのリーダーだった。

クロス、エッタ、アジェ、カトル、
そして私・・・・・・。

いつも同じ部屋で過ごしている
かけがえのない仲間たち・・・・・・

他にも子供たちはいたみたいだけど
どうでもよかった。

私たちは五人で楽園に住んでいた。



2.お姫様

後で気付いたけれど、他のみんなを
隠していたのはクロスだった。

私に気を遣わせないためか、あるいは
直視できるような状況ではなかったのか。

クロスはいつも私の目を塞いで、
何も見えないように注意していた。



3.遊戯

クロスは目隠しがとても上手だったけれど、
 
私にも少しずつ見えてきたことがあった。

クロスは、疲れている。
これも”他のみんな”が居なくなった所為なのか。

全ての指名をクロス一人が受けていた。
そしてクロスもまた、消え始めていた。



4.レン

そして、”初めての仕事”が来た。

もう、誰も居なかったのだ。
私の代わりに出ていってくれる子供が。

だから私は仕事をせざるを得なかった。
 ・・・・・・私は初めて、外へ出た。

誰かが何か言っている。わたしはいつものように耳を塞ぐ。
誰かが何かをしている。わたしはいつものように目を瞑る。
わたしはいつものように。

わたしはいつものように。
わたしはいつものように。

わたしはいつものように、遊びに出た。


おはよう、レン。今日も良いお天気ね。でも風通しが悪いわ。窓を開けましょ!ねえ、レン。一緒に遊びましょ?わたしもお人形さんごっこ、したいな~。今はお休み。だってクロスが出ているんだもの。クス、あの子最近指名が増えたわよね。社会的ニーズってやつかしら。レン、いいこと教えてあげる。『はい、よろこんで』って言うのよ。するととってもよろこんでくれるの。『はい、よろこんで』『はい、よろこんで』。これでみんな喜んでくれるわ。くす、おかしいでしょう?喜んでいるのはお客様なのにね。私たちが守ってあげる。だから何も見なくて良いんだよ。『レン』


大丈夫。レンは気にしなくていい。それにいろいろとコツがあるの。上手にやれば意外と簡単なのよ。レンが心配することじゃない。レンは、いつも幸せだから。それでいいの。レンが幸せなら、私も幸せだもの。私も一つだけ教えてあげる。とっておきの方法。あのね、相手の気持ちを想像するの。きっと気持ち良いんだろうな、とかいま感じているんだろうな、とか。痛いのだけは我慢できないけれど、嫌なことは気にならなくなるの。無理矢理は駄目。どうしたら相手が喜んでくれるか、きちんと考えるのよ。私たちが守ってあげる。だから何も見なくて良いんだよ。『レン』


う、うん・・・・・・よく分かんない・・・・・・あたらしい遊びなんだって。よく分かんないや・・・・・・あ、だいじょうぶだよレン。ぼくはへいき。ぜんぜんへいきさ。いつものことだよ。もうイタくないよ。レンがいてくれればぜんぜんへいき。じゃあ、ぼ、ぼくも・・・・・・あのね、ぜったいに『ごめんなさい』って泣いちゃだめなんだよ。ますますぶたれちゃうからね。イタくてもかなしくても泣いちゃだめ。『ごめんなさい』って言ってもゆるしてもらえないもん。私たちが守ってあげる。だから何も見なくて良いんだよ。『レン』


レン、何をしているの?罪の色か。ステキだね。あはは、そうだね。きっとお腹は真っ白だね。・・・・・・レン。ここには初めから僕たちだけ。僕たちだけしか居ないんだよ。そうだよ。初めから、僕たちだけの世界さ。僕たち二人だけ。さあ、お絵かきしよう。・・・・・・・・・・・・・・・・っ。何でもないって、言ってるだろ!・・・・・・・・・・・・・・・・君が悪いんだよ。君が悪いんだよ。何もかも、君が悪いんだ。他のみんなは、すぐに殺しちゃったくせに。どうして僕だけ生かしておくんだ。君が悪いんだよ。僕を殺さなかったから。君が悪いんだよ。僕を殺さなかったから。君が悪いんだよ。僕を殺さなかったから。君が悪いんだよ。僕を殺さなかったから。君が悪いんだよ。僕を殺さなかったから。僕はもう、とっくに死んでいるのに。『レン』



5.夢の続き

そうだった、のか。

レンは そうだった のだ。
初めから。
レンは 生まれき て は い け な か っ た。

相変わらず、世界が回っていた。
私の知らないところで、世界だけが・・・・・・
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(2-7) 星の行方

レンは、昔の夢を見た。
夜中に一人、目を覚ました。

昔の夢を見るのは、いつもの事である。その日が特別という訳では無かった。
でも、ロレントに来て、未だに夢を見続けるということが、レンを悩ませていくのだった。
ロレントは平和な街だった。絵に描いたような穏やかな日々。
それは、レンの知るレンの日常と余りに異なる世界だった。

知らない、こんな世界。
知らなくてよかった。

安穏と暮らして疑う事もない人々が、レンを苦しめていく。
町の人が笑顔で話しかけてくれるだけで、レンは辛くなる。

どうして、あの人達は約束された幸せを享受出来たんだろう。
どうして、私はそうではなかったんだろう。

悔しくて、羨ましくて、憎い。
何より、妬んでいる自分が醜く、情けなかった。

罪の色なんて、知りたくない。
レンだって正しい子供で居たかった。
健やかに育って、立派な人間になっていきたかった。
どこで間違ったのだろうか。
レンはどこで悪い子になってしまったのだろう。

「ああああ・・・・。」

気が付けば、頬から涙の雫がこぼれ落ちていた。

考えたくない。何も考えたくなんかない。

知らなくていい。何も知らなくたっていいのだ。

見なくていい。何も見なかったことにしてしまおう。

忘れていい。何も覚えている必要なんてないんだ。

居た堪れなくなって、レンは自室を飛び出した。
普段はこんなに悩まない。
寝る前の会話が何か情緒不安定な引き金となっているのだろうか。

エッタ、アジェ、カトル、クロス。
そして、レーヴェ。
みんな居なくなってしまった。
きっとまた、別れは来るだろう。
レンと暮らす限り、みんな居なくなる。
世界が回り続ける限り、別れは必然なのだ。

レンは家を出て、走り続ける。
ロレントから南に抜けて、森の中をただ逃げ続けた。

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・・。」

呼吸が苦しかった。

「あああ、ああああああああああ!!」

レンの悲しみが、瞳から流れ出てゆく。
流してしまおう。
出せるだけ、出し続けてみよう。

何が苦しいのか、どこが痛むのか、
もはやレンには何も分からなかった。

寂しいのか、悲しいのか、許せないのか、
自分の感情がどこから来ているのかも
どうしたら収まるのかも、
それすらも分からなかった。

「・・・ひっ、っひっく、・・うう・・・。」

もはや、泣いているのか、喚いているのか、叫んでいるのかも、聞きとれなかった。
まともに呼吸が出来ずに、必死で息を吐き出そうとする。

息が切れたころ、力尽きて、倒れた。
池近くの淵に腰掛けた。
夜風に冷えた土が、レンの熱を吸収してくれる。

上を見上げれば、満天の星空が見えた。
ああ、そうだ。
空だけは昔と変わらない。
レンを裏切らない。
涙で腫れている目元を冷やす必要があった。
池の水を汲んで、顔を冷やした。
そのまま、夜風に顔を当てておく。

レンは草むらに寝っころがって、取り留めもなく、星の数をカウントし始めた。
やがて、その行為の無意味さに挫けた頃に、また眠れるだろう。

どのくらい、そのまま数えていただろうか。
カウントが4桁を越えて、数え続けていても眠りにつくことすら出来ないことに、失望し始めた頃だった。

ふっと背後から気配がした。
足音を殺した気配である。
レンは、突如跳ね起きた。
上から落ち着いた声が聞こえた。

「ごめん、驚かせちゃったね。」
「・・・・・・ヨシュア。」

「こんなところで何を見ているんだい?」
「うん。星がいっぱい見えるなあって。」
ヨシュアはレンの近くにそっと腰を下ろした。

レンは、星座観測を楽しんでいたようなフリをした。
別に演技だってばれていてもいいのだ。
それでも、平気な顔をしていたかった。
「あれが、カシオペア。あれが、アンタレス。」
ヨシュアも何も気にしていない風に自然な声音で返答をしてくれた。
「レンも星を見るのが好きだったのか。」
「レーヴェに教わったのよ。昔の知り合いが詳しかったんですって。」
「そうか・・・。」
ヨシュアの声は寂しそうだった。きっと彼にも、レンの知らない悲しみがあるのだ。
レーヴェが星空を見ているときは、いつも寂しそうだったように。

レンは話を続ける。今は他愛ない話を誰かとしていたかった。まるで、世界に自分しか居ないような心持ちだったのだ。 
「ヨシュア、知っている?」
「ん。」
「天秤座はね、正義を司る女神なの。人々が戦争に夢中で他の神様が見放しても、女神アストライアだけは人々を信じた。でもね、辛抱強く見守り正義を信じた女神も、ついには堕落した人間に絶望して、天へ帰っていったんですって。」
「きっと、昔の人も、地上に正義なんてないって知っていたのね。」
「・・・レン。」
ヨシュアの小さな相槌を聞いて、レンは話題選びを失敗したことを悟った。だめだな、他の話が思いつかなかった。レンは演技を諦めることにした。レーヴェとヨシュアの横は、レンにとって何も騙さなくて良い場所だった。自分自身さえも騙さなくて良い。レンは世界と向き合う時はいつだって、自分さえも取り繕って生きてきたのだ。

レンは小さく溜息を吐き出す。同時に、レンは一ヶ月の暗雲をも吐き出してしまった。
「レンは、きっとヨシュアみたいに器用に生きられない。」
ヨシュアは、驚かなかった。淡々といつもの声音で応えた。
「・・・。僕だって器用じゃあないよ。」
「きっとレンは、また夢を見るわ。何度も何度も昔の夢を見る。その度に街中で無邪気に笑っている子供を見ると、幸せそうな夫婦をみると、ただ憎くて、ただ許せなくて、殺したくなってくるんだわ。」
「・・・。レン。」

「分かってる。それじゃ、自分にも良くはないって。昔は昔。ちょっと不幸なことがあっただけ。今は違う。そんなことは分かってる。でも、きっと心で割り切れないの。」
ヨシュアは、池の水を手で掬う。夜の池は昏く、深く、飛び込んだらどこまでも沈んでいけそうだった。
「すぐにさ、割り切る必要もないんじゃないかな。僕だって、時間がかかった。今でも悩むことがある。それで良いんじゃないかな。」
掬い取られた黒い水が、ヨシュアの手の中から零れ落ちていく。その落ちていく水飛沫がただ儚くて、切ない。

レンは消えてしまいたかった。このまま宵闇に溶け込んでしまいたかった。自分がロレントに居てはいけない、自分の居場所はここじゃない、ずっとそんな気がしていたのだ。
「きっとエステルやヨシュアにも迷惑をかけるわ。」
「いいんじゃないかな。レンが一人で悩んでいるより、きっと皆で悩んだほうが上手くいくよ。」
ヨシュアらしからぬ正論そのものの、その場凌ぎの慰めに、レンは笑ってしまった。
「本当に、ヨシュアはそう信じているの?」
「念を押されると、僕だって自信はないけど・・・。でも、それでいいんじゃないかな。」

ヨシュアは大きく仰け反って、手足を広げた。目の前いっぱいに広がる星空を見上げる。
「エステルはきっと君に世界の明るさを教えてくれるだろう。君が昔から知っている世界の暗闇も、またきっと真実の姿だ。だけど、暖かくて眩しいような時間だって、あるってことで、それでいいんじゃないかな。」
ヨシュアはそのまま空中に手を伸ばす。どんなに手を伸ばしても、星の光までは届かない。私たちが触れることが出来るのは、周りの宵闇だけだ。夜風が空を掴もうとする手の平を、ただ冷やしていく。
「何も急ぐ必要はないよ。」
ヨシュアがそのまま起き上がって、笑いかける。悲しい笑顔だと、レンは思った。彼もまた悩んでいる。レン一人が苦しんでいるわけではない。レンは自分が子供っぽい問いで困らせたことを恥じた。

レンは腰を上げた。
「そうね・・・。うん。ありがとう、ヨシュア。話を聞いてくれて。」
ヨシュアも立ち上がる。
「どういたしまして。もう帰ろう。明日起きるのが遅いと、エステルに叩き起こされるよ。」
「ふふ。そうね。」
レンは、寝巻きについた泥を丁寧にはたいて、落としていく。
泥ははたかれて、少しずつ地上に落下して降り積もり、土に帰ってゆく。その様をヨシュアは眺めていた。

居場所は自分で決めるものだ。他人がそれを強制することは出来ない。ヨシュアにはそれが分かっている。だけど、何もしないつもりもなかった。レンがただ楽しいと、ただ安らぐと、思える日がいつか来る。純粋に守りたいと、大切な場所だと、願ってくれる日がいつか来ることを祈っていた。

残酷な事だが、辛い思いをしたのがレンならば、それを乗り越える事も他の誰でもないレン自身にしか出来ないことなのだった。