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Falcom・軌跡シリーズの同人小説サイトです(;'ω')ン 主役はレンで、時期は零の軌跡後です。
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(3-4) サイオン研究所

ヴェルヌの動力車は、銀色に光るいかにも近代的な建物の前で止まった。

高さは地上5階建てくらいだろうか、高層ビルと言うほどには高くはない。
だが、横一面いっぱいに広がる建屋の横幅が続き、まるで要塞のように重圧感を与えてくる。

手前の建物は、ガラス張りの窓が一面に伸び、太陽光を反射し返していた。
その奥にはいくつもの、建物が連なるように建てられている。

「わあああ、なんだか、すごい圧倒されますー。」
車から降りて第一声、ティータの感嘆が聞こえた。
レンも同様に左右を見渡して、言葉がない。

ヴァレリア湖畔の蛇の要塞を思い出す造りであった。
たかだか極地の小さな研究所、という触れ込みには合わない家屋である。

(きなくさいわね。)
どんな組織にだって、霞を食べるわけにはいかない以上、必ず金の流れがあり、叩いたら埃が出るものだ。
だが、これはどうだ。
こんな見た目の研究所が、アーティファクトの解析に手をつけたら、それこそ教会が明らかにマークしてくるのも頷けるほどだ。

レンは素直に感想を漏らすことにした。
「まるで、砦のようね。」
博士は気分を害することなく応じる。
「ははは、こんなガラス張りでは、狙撃されたらお終いさ。貿易拠点での技術力をアピールするための苦肉の策と言う訳だ。」

確かに、手前の建物は窓が多く、華々しい印象を受けさせるための、デザイン重視の建物だろう。
だが、奥につづく研究棟らしき建物たちはどうだ。ほとんど窓もなく、コンクリート造りだろう。
建前と現実、という理念がそこには感じられた。

長い戦乱の歴史に振り回されたアサト諸島は、見た目こそ豊富な自然に恵まれた観光地として輝かしいが、中身は理想ばかりを追っていられないのだろう。そこには人間社会というものの、本質が詰まっているように感じられた。

レンは別に理想主義者ではない。
現実を追うことでしか、自己の安全を確保できないならば、その通りにすべきだろうとは思っている。
だが、歳若く未来あるティータが動力技術の発展のために、解析作業を行う拠点としては、若干相応しくない様に感じられるのだった。

(なかなか、アサト諸島って面白そうな場所じゃない。)
背筋にほどよい緊張が感じられる。
張り詰めてきた神経の感覚をひとつひとつ確認して、レンは自分の身体能力が一ヶ月の平和で衰えていないことを願った。

二人は手前の建物のロビーへと案内され、受付にて博士からセキュリティカードを二枚ずつ受け取った。
手前のオフィスビルと、そのすぐ奥の二号館に入れるキーとなる。

そのまま、二号館の地下、アーティファクトを保管している施設へと案内される。
ビル内はエレベータも配備されており、さらには建物間を移動するために、床が動く自動エスカレーターなるものが設置されていた。

「随分と近代化しているのね。これは、ツァイスの工房は勿論、ルーレのラインフォルト社や、レマンのエプスタイン、クロスベルのIBCにも匹敵出来る設備じゃないかしら。」
レンはついつい独白する。

「おや、レンさんはルーレにもレマンにも行ったことがおありか。」
サイオン博士が聞いてきた。
「ええ、まあ。貿易商の娘だったのよ。」
レンは言葉を選んだ。嘘は言っていない。遊撃士の家の出、というより無難だと思ったのだ。

「若い身空でなかなか経験豊富なお嬢さんだ。」
サイオン博士は感心した。

テイウ助手の低い声が磨かれた廊下に響いた。
「こちらになります。」

カードキーを通すと、分厚く、空気の粒一つも逃すまいと作られたような扉が開く。
その先は、着替え室となっており、白衣に着替えるためにロッカーまで用意されている。
指示どおり白衣を着込み、白い専用の帽子を被ると、テイウ助手は先ほどのカードとはまた別の新しいカードを鍵として使用した。

低い電子音を立てて、自動的に扉が開いた。
エレベータールームように人が5人程しか入れない小さな部屋が現れる。
「こちらの部屋へどうぞ。」

白衣に着替えた4人が、部屋に入ると扉がしまった。
ティータが驚く。
「わわわ。」
閉じ込められたと思ったのだ。

空気の出入りする音がする。
気圧が変化した。
耳に少し圧迫感が伝わり、キーンと耳鳴りが聞こえた。

数秒後、小部屋の奥の壁が左右に開いた。

レンが呟く。
「驚いた。密閉室になっているのね。」
実験環境を整えるために、気温・気圧・空気の成分・埃の排除など徹底された室内管理が施されている。

「ええ。古代遺物、の実験では何が起こるか予測がつきませんからね。」
サイオン博士の声は、心なしか得意そうであった。
天下のZCFの使者の度肝を抜いてやろうという試みが成功したことを確認出来たからだろう。

「・・・。」
(これは、さすが、と言うべきかしら。)
中の状態を一定環境に保つという機能もさながら、まるで解析担当者を閉じ込めているような仕様だとレンは思った。

「はわあ。なんか凄い実験室ですねえ。」
ティータがびっくりしている。さすがの中央工房も、ここまでの無菌室は存在しない。
そもそも中央工房は技術好きが、趣味で集まったような走りで起きた『自由』と『発想』を売り物にする工房である。
むしろ、民間で役立つ物を造って、人々の生活に動力を根差させるという、趣旨が強い集まりなのだ。

それに対して、サイオン研究所は違う。
これは、高い投資に対して、確実に結果を求めた研究室組織であった。

(これが、小国ながらも独立を保ち続けたリベールと、大国に蹂躙され続けたアサトの違いね。)

二大国の影響を受け続け技術だけが肥大化し発展が先行していったクロスベルとも違う。
むしろ激しい競争で常に先頭に立つことだけを目指し続けたラインフォルトやヴェルヌといった様相であった。
そこには、理想と信念は捨てられ、競争という実態だけが残っていた。

部屋の中央には大きな透明ケースに覆われた圧力制御装置が置かれていた。
ケースの真ん中に、掌ほどの大きな石が見えた。

その石は、手の平サイズの大きさながら、正方形の板のような形をしていた。
横幅と縦幅は人差し指ほどの大きさで、同じ位の長さをしている。
だが、奥行きは薄く、爪ほどの厚みしかなかった。

自然物ではなく、何らかの人工物であることは明らかである。
蒼黒い色をしていた。
端に薄い水色をした縁取りが施されているものの、中央は暗く、何という特徴もない濃紺一色である。

その石を見つめたティータが呟く。
「リベルアークで見たデータクリスタルに似ています・・・。」
レンも同意した。
「そうね、それはレンも思ったわ。」

サイオン博士が聞いてくる。
「ほう。さすがはリベールの方だ。古代遺物の見識も深いとは。お招きした甲斐がありそうですね。」
「その、データクリスタルとは、一体どういったものです?」
ティータの視点は、その不思議な石に吸い寄せられていた。ケースを見たまま動かずに答える。
「何かの情報端末みたいなものでした。」

博士は尚も質問する。
「情報端末。つまり、古代におけるコンピューター端末ような機能を持つのでしょうか。」
ティータはじいっと今度は石の置かれている制御装置を観察している。
「そうですね。もしくは、この部屋に入る際に使われたカードキーのような役割かもしれません。何らかの装置を動かす鍵となるか、何らかの情報を別の装置から引き出すか。リベールで発見された古代遺物には、そういった役割を果たした物が多く見られました。」

そこで、ティータはそこで、博士に振り返った。
「こちらも全てが解析出来ていたとはとても言えません。とはいえ、類似の物品であれば解析出来る準備はしてあります。」
博士はおおきく頷いた。
「それは、頼もしい。よろしくお願いしますよ。やはり、貴方はラッセル博士の孫という立場に恥じない立派な技術者の目をされている。」
博士がティータに手を差し伸べる。ティータはその手を掴みなおした。
リベールとアサト。遠い異国の技術者二人は、しっかりと握手をしていた。

皮肉げな気持ちで、レンはその握手のさまを見ていた。
もちろん表面的には出さない。
レンは博士に質問を投げかけた。

「こちらも聞いてもよろしいかしら?」
「もちろん、何なりと。」
「博士は、このアーティファクトを解析してどうなさるおつもりなのかしら?」

「・・・。」
そこで、サイオンは一瞬沈黙した。
「もちろん、動力技術の発展に生かせれば、と考えています。だが、どういった結果が得られるかは、私にもまだ分かっていません。」

「そうですよね。ありがとう。」
無難な回答である。レンは引くことした。

そこで、実験室の電話が鳴った。
テイウ助手が受話器を持ち上げる。
電話の表示には『受付』と記載されていた。

「はい。X201実験室です。」
「はい、え、ええ。はあ、そうですね・・・。」
テイウ助手は、少し困っていそうだ。しきりとサイオン博士の方を見る。

いぶかしんだサイオン博士が声をかける。
「どうした?」」
テイウ助手は受話器を離して、博士に話しかけた。
「それが、そのう。教会のシスターが表にいらしているとか・・・。」
「む。」
博士も少し眉根を上げる。
「アーティファクトの調子はどうだ。今日は動いていないか、見せてみろ、と言っているそうです。」
テイウの声は呆れ果てた色を含んでいる。
「こうも来られては、こちらの仕事も進みませんが・・・。」
博士が溜息を吐く。
「仕方ない。今日は上げてやれ。そもそも解析チームが到着した場合は紹介するという約束があった。」

なんだか不穏な空気である。
要塞風の外観の建物に仕舞い込まれたアーティファクトに対して、教会が難癖をつけているのだろうか。

黙って見守っていたティータが声をかける。
「あの、教会の方がいらっしゃるんですか?」

テイウ助手が答える。
「ええ、ちょっと頑固な方でして、動作していないからと我々に解析の権利は譲ってくれたものの、日々その動作状況を確認に来られます。」
熱心なことである。

レンが口を挟んだ。
「封聖省の方なのかしら。地元のシスターさんかしら?」
それには博士が答えてくれた。
「今回の古代遺物の発掘により、地元の司祭が、アルトリアの封聖省から呼んだ専門家だそうだ。まだ色気もない小娘だがな。」
レンにとっては、昔の商売敵である。顔見知りであったら、少し面倒だ。白衣と、専用の帽子を着込んでいて、良かったと状況に感謝した。大人しくしていれば、顔見知りでも誤魔化せるかもしれない。まさか守護騎士が来るような状況でもないだろうが。

そんな話をしていると、受付嬢に案内されて、噂のシスターさんが部屋に入ってきた。
あちらも白衣を着て、帽子を被っている。
背格好からすると、若そうではあった。

受付スタッフが実験室の扉を開く。
カツン、と足音を立てて、まだ成人していないであろう若い少女が入ってきた。
身長は女性としては平均くらいであろう。瞳はヘイゼル。髪色は緑がかったアッシュブロンド。
顔立ちはやや北国の民族に感じられた。
はっきりとした目鼻立ちをしている。
だが、化粧気はなく、まるで女性らしさを感じさせない。
むしろ、凛々しい美青年といった風情だ。

「お久しぶりですね、サイオン博士。」
はっきりとした口調だった。声質はやや低めのアルト。

それに対して、答えるサイオン博士の返答はさらに低かった。
「久しぶりという程間が開いたかな。昨日もお会いしたか、と思いましたが。シスター・アルコリス」 リンデール

「毎日、様子を見にくると、お伝えしたかと思いますが。」
「まさか、本当に毎日来られるとは、思いませんでした。」

「こちらの小さなお嬢さん方は?」
「リベールのZCFからいらっしゃった技術者の方です。我々の解析作業を手伝っていただきます。」
「・・・。まさか、こんな小さいお方に?正気ですか。」

「見た目で人を判断するのは、浅慮かと思いますが。こちらのお嬢さんはかのアルバート・ラッセル博士の孫にあたります。優秀な動力技術者ですよ。」

「あ、ティータ・ラッセルです。よ、よろしくお願いします。」
「そして、同行されているのが・・・。」
「・・・同行者のブライトです。よろしくお願い致します。」
レンはあえて、下の名前を名乗らなかった。嘘は言っていない。下手に名乗って、元執行者だとバレるのも面倒だ。

「よろしくお願いします。七様教会・封聖省の従騎士、マレス・アルコリスと申します。」

「わあ、じゃあ、星杯騎士団の方なんですね。」
「ええ。末端ですが。」

「えっと、ここにある物は力を失ったアーティファクトなんですよね。」
「今は起動を確認出来ておりません。」
「・・・ということは、その教会の方は回収はされないんですよね。」
「そうなりますね。ただし、何らかの起因で起動した場合は、教会が回収させて頂きます。」
「あ、そうなんですね・・・。」

「えーっと。その、動いていないこのアーティファクトをかなり気にされていらっしゃるようですけど、なにか理由があるのですか?」
「・・・。この地のアーティファクトは特殊な力を持っています。そして、大崩壊の後も度々その力が悪用され、悲劇が繰り返されてきました。我々は特に警戒をしております。」
「特殊な力・・・。」

そこにテイウ助手が口を挟んだ。
「しかし、動いていない遺物の解析までは、禁止できないはず。ちょっと干渉が過ぎるように思われます。」
「それだけ、アーティファクトは危険をも秘めている。ご寛恕ください。」

サイオン博士が続いた。
「現時点を持っても、何の反応も示しておらん。そう度々訪ねられて、案内していてはこちらも仕事の進行に差し障りがあります。これ以上は無用な干渉として、ご案内出来ない日もあること、ご理解頂きたいですな。教会が触れるのは、力を持ったアーティファクトのみのはず。これは、権限外の事象でしょう。」

「・・・。おっしゃるとおりですね。しかし、再び起動してからでは、遅いこともある。触れてはならない禁忌に挑戦しているということ、今一度ご認識願います。それでは、本日も動作しないこと確認いたしましたので、邪魔者は失礼いたしますね。」
涼しい声音で、シスター・アルコリスは去っていった。
勝手に研究所を歩き回れては困ると、受付嬢がその後を慌てて追っていく。

博士がティータとレンに向き直る。
「騒がしくて申し訳ない。この地は何かと様々な勢力が、凌ぎを削る土地柄でしてな。なかなかゆっくり解析するのも難しいのですよ。そろそろ夕刻になります。まずは、我が国の首長をご紹介しましょう。」

「あ、いえ。」
ティータが気にしていないと手を振る。

テイウ助手が声をかける。
「解析をお願いしたい古代遺物はこの部屋に保管してあります。お渡しした鍵で、お二人はこの実験室に出入りできます。解析作業の程よろしくお願いします。
首相邸にご案内しますので、またお車をご用意します。ロビーでお待ち下さい。」

博士と助手に連れられて、レンとティータは実験室を後にした。
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